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私のおすすめの書籍 ~その13~  推薦 歴史の里マイスターの会 O崎さん

殯の考古学 _考古学からみた古代祭祀3」 

穂積裕昌(ほずみ ひろまさ) (雄山閣2024) 

 

 著者(1965年生まれ)は現在、三重県埋蔵文化財センター所長です。

 殯(もがり、あらき)をめぐっては、文献・民俗・考古・古代文学とさまざまなアプローチがあります。本書はあらゆる手法を駆使して、総合的にとらえようとする試みです。この紹介文では、特に最後の2つの見方に注目します。

 

 考古分野に関して、著者は導水施設(奈良県南都大東遺跡)を遺体の洗浄を目的とした殯所の一施設とみることを提唱しており(2004年)、その後の展開でこのような捉え方に対し賛否両論のあることを述べています。

 また、形象埴輪、とりわけ人物埴輪群像が殯儀礼を再現し、被葬者霊の鎮魂を表現したとみる考え方を示しています(例えば、今城塚古墳内堤埴輪祭祀区)。

 

 次に、古代文学について『万葉集』における柿本人麻呂による3つの長大な「殯宮挽歌」をとりあげています。ここではことばが豊富であるにもかかわらず、殯の進め方を現わす具体的なイメージに乏しいことや、殯宮の場所の特定に関する説を述べています。そのほか『古事記』でのヤマトタケルのいわゆる「大御葬歌」と殯との関連も示しています。

 

 第2章での研究史の概説は見やすいものです。全体的には古墳時代当時の喪葬の実態およびそれを支えた死生観について明らかにする目的で書かれています。